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昆虫研究

これは、デザインと昆虫の関係を中心とした研究、挑発、投機の領域です。構造、製品およびサービスは、バイオテクノロジー、食品/製品の生産、ペットとして使用される昆虫に由来します。

JIDA展: インセクタリウム
東京
13 Dec 2016 - 20 Dec 2016

JIDA, Next Eco Design展2016
新宿パークタワー1Fギャラリー3
http://marucan.jp/index.html

これは、NSCAD大学のキャンパスにある研究施設であり、2017年の秋から正式に活動を開始する予定だ。9㎡の室内には、364本のダンボール製六角管でつくられた、半永久的な建築インスタレーションがある。この構造物が、「インセクタリウム」と呼ばれる空間と、新たに定義されたオフィススペースを区別する。構造物のフォルムは、多くの昆虫の外骨格や翅(はね)に見られるバイオポリマー(生物高分子)である「キチン」のミクロレベルの構造的特徴を検討し、発展させたものである。さらに、六角形のフォルムは、各ダンボール製六角管に昆虫テラリウムを1つずつ収容できるようになっている。このプロジェクトでは、さらに2つの “R” を導入する。Reintegrate、すなわち、既存の生物的システムに再び再統合していくデザインであり、Reform、すなわち、バイオミミックリー(生物模倣)など、生物学からのインスピレーションによるデザインである。

  • インセクタリウムインストールの詳細,クリストファー・カルテンバッハ/カルテンバッハ研究室/アクションファインドコピーペースト, Next Eco Design展2016. 写真家:谷内孝暢
  • インセクタリウムインストールの詳細,クリストファー・カルテンバッハ/カルテンバッハ研究室/アクションファインドコピーペースト, Next Eco Design展2016. 写真家:谷内孝暢
  • インセクタリウムインストールの詳細,クリストファー・カルテンバッハ/カルテンバッハ研究室/アクションファインドコピーペースト, Next Eco Design展2016. 写真家:谷内孝暢
  • インセクタリウムインストールの詳細,クリストファー・カルテンバッハ/カルテンバッハ研究室/アクションファインドコピーペースト, Next Eco Design展2016. 写真家:JIDA
  • インセクタリウムインストールの詳細,クリストファー・カルテンバッハ/カルテンバッハ研究室/アクションファインドコピーペースト, Next Eco Design展2016.
  • インセクタリウムインストールの詳細,クリストファー・カルテンバッハ/カルテンバッハ研究室/アクションファインドコピーペースト, Next Eco Design展2016. 写真家:JIDA
インセクトゥムのショップ
東京, 浅草
19 Mar 2016 - 27 Mar 2016

昆虫を使ったプロダクトや昆虫の商業活用の促進のための店舗の開発も研究している。今年の3月には東京の浅草に、昆虫食を試食し、カブトムシと遊べるポップアップショップ第一弾を開設。バイオテクノロジーやバイオミミクリー、食虫性といった昆虫をめぐる新しいコンセプトを掲示し、昆虫学を専攻する研究者達と発表やディスカッションを行った。この場所が日本での昆虫の利用を考え話し合うプラットフォームになることを願っている。

  • インセクトゥムのポップアップショップ東京浅草,クリストファー・カルテンバッハ/カルテンバッハ研究室/アクションファインドコピーペースト
  • 内装: インセクトゥムのポップアップショップ東京浅草,クリストファー・カルテンバッハ/カルテンバッハ研究室/アクションファインドコピーペースト
  • 内装: インセクトゥムのポップアップショップ東京浅草,クリストファー・カルテンバッハ/カルテンバッハ研究室/アクションファインドコピーペースト
  • 昆虫食品:インセクトゥムのポップアップショップ東京浅草,クリストファー・カルテンバッハ/カルテンバッハ研究室/アクションファインドコピーペースト
  • 昆虫食品の本:インセクトゥムのポップアップショップ東京浅草,クリストファー・カルテンバッハ/カルテンバッハ研究室/アクションファインドコピーペースト
  • 昆虫食品のイベントポスター/佐伯真二郎によるプレゼンテーションのイベントポスター:インセクトゥムのポップアップショップ東京浅草,クリストファー・カルテンバッハ/カルテンバッハ研究室/アクションファインドコピーペースト
インセクタリウム:昆虫デザイン研究施設
カナダ、ハリファックス
12 Sep 2016

この「インセクタリウム」と呼ばれる昆虫観察のための新たな構造物は、19世紀に建てられたビルの2階の一室に設置した。この部屋はメイン階段の目の前に位置している。入り口のある共用廊下側には、オフィスのドアのほかに、窓(927mm x 1791mm)が1つ存在していたので、この窓をこの部屋への新たな入り口とした。内部はオフィススペースの機能も残し、「インセクタリウム」の機能にはオフィス空間のための棚としても使えるようにした。

個のダンボール製の六角管に昆虫テラリウムを1つずつ収容できるようになっている。 構造物のフォルムは、多くの昆虫の外骨格や翅(はね)に見られるバイオポリマー(生物高分子)である「キチン」のミクロレベルの構造的特徴を形態のデザインへと発展させたものである。 キチンの構造的特徴は、長いキチン-タンパク質ファイバーがほぼ平行に並んで1つの層をなしているが、それらの層が互いに積層する際に「一定のアングルで少しずつずれることで螺旋状の配置をつくりだす」点にある。これにより、昆虫の外骨格の組織全体に強度が生まれている。インセクタリウムの構造設計は、ダンボール建材を使用し、ミクロレベルに存在するこの構造を、スケールを拡大して建築物のデザインへと変換した。

この六角管の中に昆虫テラリウムが挿入される。ここでは、コオロギ、カイコ、カブトムシなどの昆虫を育てる場として計画されている。現在、2つのテラリウムが開発中で、1つは管の内径にフィットするタイプ、もう1つは管でできた構造を支える支柱の六角形の穴にフィットするタイプである。どちらのテラリウムにも、それぞれに筐体となる管を設計する必要がある。筐体となる管を設置することで、ちょうど引き出しのように、テラリウムをスムーズに出し入れすることができるようになる。筐体となる管は構造体にしっかりとフィットしつつも、簡単に外すことができる。そのため、全体の構造体に影響を与えることなく、いつでもテラリウムのデザインを更新することができる。最終的に、筐体となる管は、昆虫の生息環境を快適化する電気設備および冷暖房(HVAC)システムを組み込無予定である。

  • 内装: インセクタリウム. インセクタリウム:昆虫デザイン研究施設 カルテンバッハ Kaltenbach lab
PhD / in progress

2014年7月1日 – 2018年 6月30 日
Architecture Research Stream:
Expanded Field
RMIT大学
メルボルン、オーストラリア

昆虫のような小さな生き物からヒントを得るデザイン手法は、今日までほとんど行われてきていない。そこでこの博士論文は、生物工学の視点から、昆虫を含む節足動物がいかにデザインのリソースとして活用できるかを検討する。生物工学の進歩において、デザインはいかなる役割を果たすことができるのだろうか?インスタレーション、プロダクト、サービスの提案を通して、本研究は学際的デザインの新たな可能性を探るものである。

  • RMIT PRS Poster,  2015年10月
書籍『インセクトゥム』
出版社: クスにあるノヴァスコシア美術デザイン大学(NSCAD大学)カナダ、ノヴァスコシア州、ハリファッ
15 Dec 2015

2015年12月にNSCAD大学は『インセクトゥム』と題した書籍を出版した。この書籍は、彼のデザインスタジオコースに参加した学生たちが制作した17のテストケースプロジェクトの検討を通して、カルテンバッハの独自のデザイン研究メソッドを紹介している。これらのプロジェクトは、昆虫のなかから、新しい素材、エネルギー、薬効成分などをつくるのに役立つ化学成分を同定する先端科学研究を利用した、さまざまなデザインの成果を提示している

イントロダクション
Insectumデザインスタジオ/デザイン思考とシステム思考
クリストファー・カルテンバッハ

本書は、17人の学生たちの作品に結実した、5年間にわたる研究と講義の成果である。デザイン思考のための方法と、有機体が新たな材料科学の主体である世界にデザインを位置づけることを目指した開発である。本書の収録作品を生み出したデザインスタジオのコースは、「多様なデザイン思考を発展させる基礎として、生物工学ではおなじみの昆虫をどのように活用できるだろうか?」というシンプルな設問から始まった。
 2014年秋、ノヴァスコシア芸術デザイン大学デザインスタジオ3(DSGN3021)コースの学生たちは、14週間にわたり、この仮説を検証する研究を行った。コースのタイトルとなっているInsectumは学生たちが持続可能性(サステナビリティ)の問題にじっくりと取り組むための概念的フレームワークを提供するものであり、学際的デザインの単位を取得するための必須科目となっている。
 デザインスタジオのカリキュラムにおいて昆虫を中心に取り上げようとすれば、数多くの難題に突き当たる。学生たちを鼓舞し、科学的研究に深く踏み込む意欲をかきたてなければならない点もそうだ。私は長年デザインを実践し教える経験を通して、学生たちが主要な探究ツールとして使えるメソッドを開発してきた。それは、先端科学研究の価値(バリュー)を理解する方法、特定の社会的ニーズに対して研究の位置づけを行う方法、そして、デザインの力で介入を行う最善の方法を考案するためのメソッドである。調査結果を解釈するレンズとしてこの分析方法は、有機生物とその環境の共生関係の内にある豊かなデザインの可能性を掘り起こすのに最適の方法である。
 最初の4週間、学生たちは昆虫から発見された化学的副産物に関する先端技術を徹底的に調査する。各学生は、最初に、自分が選択した昆虫について発表された科学論文を1つ探しだす。論文には、当該の昆虫から発見された化学的副産物の活用について、薬理化合物、エネルギー源、新素材などとしての商業的応用の提案が明確に述べられていなければならない。
 学生たちは次に、データに基づき、人工的生息地を確立するために適切な場所、またその化学的副産物の商業的応用を実践するための施設を特定する。さらに、その場所には、施設で生産されたプロダクトを必要とする特定の層が存在する未開拓市場が存在しなければならない。生産システムに必要となるこれらすべての構成要素には、引用可能な研究による裏付けがなければならない。研究のエビデンスは、この4週間においてヴィジュアル化されたデータにすべてまとめることが求められた。
 あらゆる構成要素を特定したら、昆虫を中心とした生産プロセスの包括的フローを考案する。これは、私が仮想システムと呼んでいるものだ。しかし、この特殊なシステムのパラメーターはどのように確立されるのか?システムの中には常にシステムが無限に内包されているとも言えるが、この仮想システムの領域は、プロダクトやサービスの生産のフローの中にある構成要素の1つに対してあるデザインが与えるかもしれない本質的なインパクトが及ぶ範囲である。これをフレームワークとして、学生たちは、自分のデザインがそのシステムの中で、そのシステムによってどのように創出されうるか、そのデザインがシステムの内部でどのように特定の機能を発揮しうるか、あるいはシステムの1部でありながら実際にそれを変えていく効果をどのように発揮しうるか、ということを考察する。本書に収録された17のプロジェクトは、それぞれのシステムの定義と、思考のツールとしてのシステムの効果を示している
 このプロジェクトは学際的デザインスタジオの一環である。だから、学生たちは自分が扱う化学的副産物の商業化を推進・支援するのに最適と思われる環境や特定のデザイン領域を決定することができた。デザインによる介入の形についても、印刷物/ブランディングによるソリューション、オンラインのプロモーション・キャンペーン/アプリ、プロダクト/小規模のインスタレーション、イベント/物理的インフラ、からどちらかを選択することができた。
 調査、デザイン開発、制作、デザイン完成という4つのステージの中で、このコースでは最初の2つである調査とデザイン開発のみにフォーカスする。期末に行われる最終プレゼンテーションは、商業的利用が可能な完成形である必要はなく、それを意図してもいなかった。北米では、デザイナー(設計者)がクライアントの考えに対して独立性を維持しながらデザイン(設計)を進めることは、建築や都市計画の分野では普通のことであるが、ウェブ、プロダクトデザインの分野においてはしばしば疑念の目を向けられている。1996年にマイケル・ロックが発表した「著者としてのデザイナー」や1999年にアンソニー・ダンが出版したHertzianTalesの数章を手がかりとして、学生たちはデザインの実践においてこのことの価値を理解していった。
 学期が始まると、「ある昆虫を昆虫であると定義するものは何か?」という議論が起こった。昆虫という分類が節足動物門に属することは明らかになった。このことから、クモ綱と甲殻亜門も検討可能な対象となった。最終的に、1人の学生がフォニュートリア・ドクシボグモを選んだほか、3人がそれぞれ甲殻亜門のアメリカザリガニ、バナメイエビ、フジツボを選択した。他の学生たちは昆虫を選択した。

本書について、学生のプロジェクトが掲載されたページについては、他の部分とは異なる特別なスタイルで統一している(このスタイルについては24−25ページに解説を掲載している)。各プロジェクトは1見開きでまとめられている。例えば28−29ページの見開きの場合、左側のページにはカブトムシの専門家として著名な生物学者クリストファー・マジカによる当該節足動物の説明をまとめ、ページの上部に小さなダイアグラムを掲載している。このダイアグラムによって、学生が仮想システムのどの位置でデザイン的介入を行ったのかがわかる。右側のページには、学生のプロジェクトのタイトルとイントロダクションを掲載している。続くデザインの提案の内容は、必ず4ページ以内にまとめることとした。

昆虫のキチン質に目を向ける:デザインの新しい可能性を目指す黄色いレッスン
クリストファー・カルテンバッハ

科学者たちはすでに1988年には、人類の地球の気候への干渉により、 “意図せずして、制御不能な実験が地球全体で行われており、グローバルな核戦争に次ぐ最終結果をもたらしかねない”と警告していた。1

 米国を本拠地とするワールドウォッチ研究所のこの提言は、地球の将来の気候に関する警告となっただけでなく、産業競争の激化が有害化学物質の工業利用の増加を招き、地球全体に環境へのダメージをもたらす可能性があることを私たちに思い出させた。
 テクノロジーは自然を劣等なものとみなし、改良を試みてきた。しかし、この誤解に反して、人間がテクノロジーから身を守る技術の資源をどこに求めてきたのかといえば、自然だった。その1例が、機械化された世界の戦争への対応策として開発された「カモフラージュ」であり、世界的な化石燃料戦争が環境に及ぼす影響への対応策としての「昆虫生物工学」である。この2つの例を合わせてみると、善意の科学に基づく工業化が意図せずして、しかもコントロール不能なダメージをもたらし、それに対してバランスを取り戻すために自然を使う、という進化が見えてくる。従って、自然こそが、地域レベルにおいてシステム思考に基づき自然界を評価・投資するオルタナティブな方法を達成し、それによって気候変動に対し集団的かつグローバルに対応するためのより包括的イニシアティブを達成するための重要なヒントを提供してくれるのである。
 第一次世界大戦終結100周年を迎えようとする今日も、社会がテクノロジーにおけるイノベーションを求め続けている点はほとんど変わっていない。しかし、以前とは変化したことがあるとすれば、地球全体に緊密な相互関連性が存在し、その意味がどんどん深くなっている点だ。ローマ・クラブが1972年に発表した『成長の限界』2によって広く知られるようになった経済的下位システム(人口、食糧生産、工業生産、公害、再生不能自然資源の消費)間のデリケートな関連性は、とりわけ深い意味をもつようになった。しかも、「コンテクストとスケール全体に均等に応用可能な固定カテゴリー」3に基づく統治手法が構成する政治的意志――20世紀の抽象的フォルマリズムを思わせる思考である――がなければ、大きな歴史的カタストロフを繰り返すリスクが、かつてないほど現実味を帯びてくる。
 第一次世界大戦が勃発した1914年、未来主義者たちの考えに同調した知識人たちの間には、産業革命の第二波がもたらしたスピードと効率性を礼賛する気運があった。特に生産業と輸送業における蒸気動力の利用拡大や、石炭、石油、天然ガスの大規模精製産業の成長により、人間には自然を改良する力があるのだという考えが広がった。テクノロジー礼賛は、人々の労働観や人間の生活環境だけでなく、人間であることの本質そのものにも適用された。しかも、1910年代には機械化は社会善のためになされるべきという軛がなくなり、あらゆる前線に従軍した何百万という人々に対する、想像を超えた殺戮行為が、まさに機械化によって展開されたのだった。
 戦場に均衡を取り戻すための戦略として、敵の目からその身を隠すことを軍事力にするという驚くべき戦術が考案された。フランス軍がカモフラージュを開発すると、他の国もすぐにこれを取り入れた。人間と機械を自然環境の中に隠してくれる迷彩模様を表面に施すという手法は、効果的にしてローコストなソリューションだった。古典主義の肖像画家リュシアン−ヴィクトール・ギラン・ド・セヴォラの指導のもと、演劇、デザイン、美術の職人たちがカモフラージュ部隊を結成。迷彩模様の多くは、生息地の植生や大地の色で身を隠す動物たちの模様を参考にしてつくられた。
 自然を表面的に応用して防衛するという視覚的・心理的手法には、あの時代のナイーヴな傲慢さがあらわれていた。同時に、戦争の大いなる矛盾をも示していた。つまり、工業化された戦争は前代未聞の規模で人間(すなわち自然でもある)に戦いをしかけるが、そのとき人間のほうは、全面的に機械化された軍備に対して(前工業時代の手法を使って)自然が防衛手段になることを見出したわけである。この単純なパラドクスが、世界史においても、戦争の歴史においても、1つの時代を決定づけた。21世紀の現在、気候変動をめぐって、同じように重要なパラドクスが――以前とは異なる環境と、さらに大きな規模で――出現しつつある。化石燃料から有機生物由来の化学的副産物に移行するということは、自然に対立しながら、同時に、対立を招いた問題そのもののソリューションを自然に求めていることになる。
 過去65年にわたり続いてきた化石燃料の採取、加工、輸送、処分により失われた人命の数は計り知れない。しかし、地球に対する長期的なダメージを与えたという点では、2つの世界大戦において実行された破壊行為に匹敵する。公には曖昧にされたままだが、環境に対して継続的かつ累積的に実行されているこの殺戮行為は、世界各地の気温上昇の最大の原因であり、記録に残る限り観察されたことのないパターンの気候変動をもたらしている。
 さまざまな科学分野において、化石燃料に対する代替物を見つけるべく、生物工学関連の研究が大々的に行われている。こうした研究は、有機生物「あるいはその分子、細胞、器官、または関連微生物」4から特定の商業的応用が可能なプロダクトやサービスを開発する取り組み、と定義することができる。一般向けの報道においても、ほとんど毎週のように有機生物の重要かつ新規の利用、特に医薬品や材料科学、エネルギー生成に関する記事が掲載されている。生物五界――モネラ界(バクテリア)、原生生物界(原虫)、菌界(キノコ、カビ)、植物界(植物)、動物界(動物)――はすべて、既存のテクノロジーやプロダクトに対して、化石燃料を使わない、あるいはその使用量を減らした代替策を開発する資源として検討されている。何十年にもわたり化石燃料の開発が野放図に行われてきたあとで、有機生物が代替化学物質の資源として広く受け入れられるようになったのはたいへん皮肉(アイロニック)なことである。
 昆虫は、現在大きな注目を集めている1つの綱である。その背景理由の1つとして、「分子レベルでの観察、生産、コントロール」や「生物の微細構造に固有の機能の分析」を可能にするナノテクノロジー研究の進展がある。5 ドイツ西部のユストゥス・リービヒ大学ギーセン応用昆虫学研究室などの研究施設が設立されている。応用化学における昆虫の研究分野を体系化してきたのは、アンドレアス・ヴィルシンスカス博士が率いる研究者グループだ。Insect Biotechnology (2011年)、Yellow Biotechnology I (2013年)、Yellow Biotechnology II (2013年)からなる一連の著作において、彼は昆虫生物工学の分野に関する色分類を確立した。農業はグリーン、海洋生物はブルー、そしてヴィルシンスカスの考えでは、昆虫生物工学は昆虫の血リンパ(節足動物の体液)にちなんで黄色である。6 黄色で示される分野において調査研究が進む化学的副産物の1タイプが、カブトムシを含む多くの昆虫やその他多様な節足動物の外骨格や羽に見つかるバイオポリマーの1種、キチンである。キチンは、地球上で最も豊富に存在する再生可能バイオポリマーの1つである。
 日本の英字新聞『ジャパン・タイムズ』が報じているように、昆虫は一般科学を教える際のツールとして使用されている。2012年に東京都は、「小学校教員候補生にカマキリの捕まえ方やモンシロチョウに花の蜜を吸わせる方法を教える訓練プログラム」を創設し、「科学を教えるのが苦手な教師に科学を教えやすくする」方法を模索している。7
 国連食糧農業機関の2013年の報告にあるように、昆虫は食糧および動物の餌としても価値ある資源であると考えられている。8 この報告書は、世界人口が増加し続け、2050年には90億人に到達すると予測し、食糧需要を満たすための持続可能な食糧増産策として昆虫を取り上げている。9
また、病気の治療を目的とする昆虫の遺伝子組み換え研究も進んでいる。(私の指導の下で行われた)インディペンデントなスタジオコースにおいて、ノヴァスコシア芸術デザイン大学の元学生デヴィン・コネル(BDes 2015)は、イギリスのバイオエンジニアリング企業オキシテックがデング熱治療目的で開発した遺伝子組み換えの蚊(ネッタイシマカ、OX513A)の利用を検討した。コネルは、オキシテックがこの蚊を都市環境に放つシステムの開発が進んでいない点を再検討し、ここに改良のチャンスを見出した。彼の考案したデザイン的介入は、高度に組織的でしかもローコストの蚊の放出システムを提供する。しかもそのシステムは、オキシテックのサービス全体を一地方自治体全体に拡大しうる重要な定量的データを収集する可能性もある。10 遺伝子組み換え生物は、とりわけ農業分野においては、世間の厳しい目にさらされているが、とりわけ薬理化合物の分野においては、このタイプの遺伝子操作の応用が重要な利益をもたらす可能性を示す強力な証拠が存在している。11
 人々の生活に自然を再導入するプラットフォームとして生物学をベースとしたテクノロジーの開発に説得力があるのは、人間は環境に大きな影響を与えることなくこの星に生息することはできないということを認識があるからだ。だから、人間が環境に与える影響を減らす方法を見つけることが鍵となる(ネオニコチノイド系殺虫剤の禁止は第一歩である)。有機生物、特に昆虫の利用は、さまざまな化石燃料の使用と決別する道となる。さらに、昆虫の利用は、生物系をこれまで以上に尊重することになる。だからこそ、すでに多くの指摘があるように、私たち自身も含めた生物学的プロセスは、孤立した部分というよりもむしろ統合された系であり、「20世紀において物理学と化学がそうであったのと同じくらい、21世紀においては生物学という科学がテクノロジーと社会の発展にとって重要である」ことがより明白になる。12 さらに、こうしたプロセスを認識する能力においては、木を見るか森を見るかという問題ではなく、むしろ、木と森の両方に対して継続的かつ偏ることなく目配りする方法が重要になる。
 システム生物学やライフ・サイクル・アセスメントは、私たちの環境の内部で生じている複雑な関係性を深く理解しながら、多様なスケールで理解するための重要な洞察を与えうるものである。本書を生み出したコースは、1つの仮想システム(あるいは価値連鎖(バリュー・チェーン))の内部に潜在するデザインの可能性を特定するのに、独自のシステム思考――私が開発したデザイン思考メソッド――を使用している。学生が考案したバリュー・チェーンの中で、ある昆虫の生物系について学ぶことを通して、学生たちはある生物の化学物質の抽出・生産における畜産のポジティブ/ネガティブな派生問題をより深く理解するようになった。この思考法が学生たちの将来のデザインや人生のあり方にどれほどの影響を与えるのかは、まだわからない。
 私たちは、自然に対する新しい理解の先端に――所有することよりもむしろ受託責任という立場を軸足として――立つことができるのではないか? それは最先端テクノロジーと同義ではないか? 目指す希望は、自然の価値が高められ、それによりバリュエーションに基づく規制や積極的な公共政策が策定されることである。地球が自らリハビリするために必要な時間を常に意識しなければいけない。戦争であれば、戦争のための策略と道具が排除されれば、社会は必然的に再建に向かう。しかし、私たちの環境への取り組みがすべて受け入れられ、理解され、実践されても、この星のリハビリにはまったく想像を超えた時間とプロセスが必要となり、だからこそ私たち自身が生活する場に対して非常に新しい思考を持つことが必要となる可能性は高い。

1. Sawin, Janet. “Global Security Brief #3: Climate Change Poses Greater Security Threat than Terrorism.” worldwatch.org. http://www.worldwatch.org/node/77 (accessed July 1, 2015).
2. Turner, Graham M. 2008. “A comparison of The Limits to Growth with 30 years of reality”. Global
Environmental Change. 18 (3): 397-411.
3. Taylor, Marcus. The political ecology of climate change adaptation: livelihoods, agrarian change and the conflicts of development. (New York : Routledge, 2014), 8.
4. Vilcinskas, Andreas. 2013. Yellow biotechnology I: Insect biotechnologie in drug. Berlin: Springer, V.
5. Hirata, Atsuo. “Analysis: Insect study provides keys to new technologies.” ajw.asahi.com. http://ajw.asahi.com/article/globe/feature/bugs/AJ201403210002 (accessed June 29, 2015).
6. Vilcinskas, Andreas. 2011. Insect biotechnology. Dordrecht: Springer, V.
7. The Asahi Shimbun. “VOX POPULI: Teachers well-schooled in sciences a must for an early head start.” ajw. asahi.com. http://ajw.asahi.com/article/views/vox/AJ201404150029, (accessed June 29, 2015).
8. Huis, Arnold van, Joost Van Itterbeeck, and Harmke Klunder. 2014. Edible insects: future prospects for food and feed security. http://site.ebrary.com/id/10816000.
9. Sanderson, Colin J. Understanding genes and GMOs. (Singapore: World Scientific, 2007), 18.
10. デヴィン・コーネルは、有害なネッタイシマカの生息数を減らすことに注力した。ネッタイシマカは、デング熱を媒介する蚊で、毎年多数の感染を引き起こし、致死ケースになる場合もある。オキシテックはネッタイシマカOX513Aという、子孫が駆除されるよう遺伝子組み換えされた種を開発。この種の子孫は、成虫になると死ぬので、放出した地域の生息数を大きく減少させることができる。コーネルはデザイン的介入として、A-POD(Air-Powered OX513A Dispenser[空気ポンプ式OX513A放出器]の略)を制作。この機械は、スマートフォンアプリを含む大きなシステムの一部である。http://devincdesign.com (accessed July 1, 2015)
11. Oxitec. oxitec.com, http://www.oxitec.com (accessed July 1, 2015).
12. MIT. “Department of Biological Engineering.” mit.edu.
http://web.mit.edu/catalog/degre.engin.biolo.html (accessed July 1, 2015).

  • 書籍『インセクトゥム』の表紙 2015年 クリストファー・カルテンバッハ
テーマ:昆虫 / 2014 年

Course: Design Studio 3 / Interdisciplinary Design Studio / DSGN 3021
ノバスコシア芸術デザイン大学
ハリファックス、ノバスコシア州、カナダ
Instructors: Christopher Kaltenbach with Christopher Majka (biology research consultant) and Naryn Davar (Rhino software and 3D printing consultant)

カナダのノバスコシア芸術デザイン大学において、学部三年生を対象に、昆虫をテーマとした12週間の授業をおこなっています。最初の4週間リサーチを行い、そこから得られたデータをビジュアル化します。そして残りの8週間で、それをデザインへと発展させます。学生はプロジェクトを行う国を自分で選び、そこで採れる昆虫を用います。そしてその国における社会的課題を見つけ、それをデザインによって解決します。

  • INSECTUM / NSCAD / Kaltenbach / 2014年 / Course Brief
  • INSECTUM: book cover
  • INSECTUM / NSCAD / Kaltenbach / 2014年 / K. Robb sketchbook
  • INSECTUM / NSCAD / Kaltenbach / 2014年 / S. Panchaud data visualization
テーマ:種 / 2013 年

Course: Design Studio 3 / Interdisciplinary Design Studio / DSGN 3021
ノバスコシア芸術デザイン大学
ハリファックス、ノバスコシア州、カナダ

虫の他にも、種をテーマとして、その植物から抽出できる化学物質を使ってデザインをする授業も行っています。

  •  SEED course / DSGN3021 / NSCAD University / Interdisciplinary Design / Kaltenbach
  • Wesley Norris (BDes 2015) / SEED course / DSGN3021 / NSCAD University / Interdisciplinary Design / Kaltenbach